弁護士による相続相談【弁護士法人心 札幌法律事務所】

相続放棄が認められなかった事例

1 熟慮期間を徒過したケース

⑴ 事例

令和7年1月1日に被相続人である父が亡くなったが(同日中にそのことを相続人は知った)、生前は年金で生活し、持ち家等もなかったので、特に相続財産はないと信じて、相続手続きを何もしなかった。

しかし、同年6月1日に債権者を名乗る人から「被相続人に金を貸していたので支払ってほしい」との通知が来た。

⑵ 説明

相続放棄をする場合、相続の開始から始まる熟慮期間(相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内)に、家庭裁判所に対して、相続放棄の申述を行う必要があります。

つまり、相続の開始を知ってから3か月以内に相続放棄の手続きを行わない場合は、基本的に相続放棄を行うことができなくなります。

熟慮期間にいう、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、①被相続人が死亡した事実と、②自分がその被相続人の相続人であることを知った時と考えられています。

そのため、相続開始を知った時から、3か月経過してしまうと、基本的に相続放棄ができないことになります。

⑶ 例外

とはいえ、3か月を経過したとしても、相続放棄が認められたことがあります。

ア 判例の文言

「相続人が、…相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」(最二小判昭和59年4月27日)。

イ 解説

3か月以内に、相続放棄の手続きを行わなかった理由が、①相続人が、被相続人に相続財産が全くないと信じ、かつ、②相続財産調査を期待することが困難で①のように信じたことについて相当な理由があることであったときには、相続財産(多くは債務)を知った時から3か月以内に相続放棄を行えば、認められるということである。

上記事例でいえば、相続人は、被相続人に財産が全くないと信じているので、相続人と被相続人が疎遠などで、財産状況について知ることが困難な事情が認められるのであれば、相続放棄が認められる場合があります。

2 法定単純承認事由に該当したケース

⑴ 事例

被相続人には、借金があったが、預貯金もあったので、その預貯金の中から、借金を返済した。

⑵ 説明

1の説明のとおり、相続放棄は、熟慮期間中に行う必要がありますが、その期間中に相続するつもりがあるとみなされるような「法定単純承認事由」に該当するような行為を行うと、相続することを承認したものとして、相続放棄をすることができなくなる場合があります。

「熟慮期間中に限定承認又は相続放棄をしない場合」もこれに当たります。

今回の例でいうと、相続財産の中から債務を弁済する行為は、法定単純承認事由の内の「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」に該当する可能性があり、相続放棄が認められない場合があります。

一方で、相続人自身の財産から支払う場合は、処分には当たらないと判断される場合が多いようです。

法定単純承認事由には、ほかにも「相続財産の隠匿、消費」などもありますので、注意が必要です。

3 相続放棄手続きの不備

⑴ 事例

相続放棄を行うつもりで、家庭裁判所に対して手続きを行ったが、裁判所から提出するように求められた書面を出さなかった。

⑵ 説明

相続放棄の手続きは、被相続人の最後の住所地である家庭裁判所の審判によって行われ、家庭裁判所に認められることによって、相続放棄は完了いたします。

審判といっても、テレビで見るような法廷で何かするわけではなく、書面に必要な事項を記入して、必要書類と一緒に家庭裁判所の窓口に提出すれば、多くの場合手続きは完了します(場合によっては、裁判所から質問事項を記載した書面が郵送される場合があり、それに対応する必要があります)。

そのため、裁判所に手続きを行う際に、必要書類等に不備がある場合には、相続放棄が認められない場合があります。

相続放棄を行うために必要な書類は、裁判所のホームページに記載されていますので、ご確認ください。

参考リンク:裁判所・相続の放棄の申述

必要書類等は平日の市区町村で取得できるものもあり、3か月の期間内に集めることが難しいということでしたら、延長の手続きを行い3か月の熟慮期間を延長したり、弁護士等の専門家に依頼して、手続きを代理しておこなってもらうということも考慮されるのがよいかと思います。

参考リンク:裁判所・相続の承認又は放棄の期間の伸長

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